The Obedient Feelings 2                                           outside      雨のち晴れ




昨日のことなんて、殆ど覚えてない。
あまりにもあのことが頭の中で回っていたから。
幸いにも、今日はバイトを休みにしていた。
でも、何となく家にも帰りたくなくて電車に乗り込み、ぶらぶらし始める。
だが、あまり楽しくもなく、喫茶店で一人お茶を飲んでいた。
と、その時急にポケットの中に入れていたケータイのバイブレーションが体に響いた。
着信表示は……綾子からだった。

「あ、麻衣?今どこにいるの?」

綾子の突然の質問に辺りを見回した。
…全然見覚えがない。

「え?あ、今?ここ…どこだっけ?」

オトボケ口調で返す。

「はぁ?何よ、それ」

当然、綾子は呆れていた。
それは当たり前だ。
自分でも呆れてるんだから。

「あ、ちょっと待って。…あ、新宿の南口の方」

目印のデパートとかが見えた。
少し見覚えのある風景が映し出される。

「わかった。じゃあ、渋谷まで出てきてちょうだい」
「…?何で?」

…なんで渋谷? せっかく、休みだったのに…。

「いいから。それと、明日土曜だから学校ないわよね?」

軽く念を押すように尋ねる綾子。
いつもの私なら、ここで「何かあった?」と返すはずだった。
だが、今の私はそんな気力すらない。

「う、うん。」
「じゃあ、うちで泊まらない?真砂子も誘ってあるわ」
「え?ホント?行く行く!!じゃあ、渋谷のハチ公前で」
「じゃあ、後で」

そう言って、綾子からの電話が切れた。
久しぶりだった。
このところみんな忙しくて、ゆっくり会ってなかったのもあった。
素直に、「綾子と真砂子に会いたい」そう思っていた……。
誰かに、今の気持ちをしゃべりたかったのかもしれない。
そんなことを思うのは、後々の話だけど。 J



R渋谷駅、ハチ公前。 綾子を待つ。
十分くらいしたところで綾子が来た。

「ごめんねー。じゃあ、行こうか?」
「うん。あ、真砂子は?」

真砂子の姿がないことに気づいて尋ねた。

「仕事終わってから、まっすぐこっちに来るって」
「そっか。じゃあ、行こう」

そう促すと綾子と二人電車に乗って、綾子の家に向かった。
何ヶ月ぶりだろ?
暫く三人でお泊り会していない。
久々に夜中まで三人で話すのだろうか?
そう思うと楽しくて周りのことを気にせず「クスッ」と笑う。
そんな私を訝しげに綾子が見ていた。

「何?いきなり笑い出して」
「ううん。ひさしぶりだな〜と思って」

ふふっと笑いながら答えた。

「そうね。久しぶりよね。今日はじゃんじゃんしゃべりましょ」
「うん!料理も期待してます♪」
「任せなさい!とびきり美味しいビーフシチュー作るから」

自慢げに綾子は答える。
そう、綾子のビーフシチューは格別美味しい。
私も真砂子もお気に入りの一品だ。
「わーい♪」

しゃべっているうちに目的の駅へ着く。
ここからは歩きで十分。
うだうだしゃべりながら綾子の家目指して歩く。
ちょっと急な坂を登ったら、ワンルームマンションが見えた。
マンションのエントランスを抜け、エレベーターに乗り、綾子の部屋の階のボタンを押す。
どんどん上がっていくエレベーター。
目的の階に着くとすぐそこには綾子の部屋。 綾子が家の鍵を出し、扉を開ける。

「さ、どうぞ」

促されるまま家の中に入る。

「おじゃましまーす」

前に来た時よりも少し家具の配置が変わっていた。
………もしかして………

「…ね、綾子」

私は一点を見つめたまま尋ねた。

「ん?」

綾子はキッチンで飲み物の用意をしている。

「ぼーさん、この部屋来たの?」

頭に浮かんだ言葉を述べる。

「は?」

私の質問に驚いて、動かしてた手を止めた。

「来たんでしょ?」

確信していた。
女の勘だろうと自分で思う。

「何でそう思うわけ?」
「だって、家具の配置変わってるんだもん。しかも重い食器棚とか。男の人の力が必要でしょ?
綾子だったら、ぼーさん呼ぶだろうなって思って」

私の質問に納得した綾子はこう答えた。

「ええ、そうよ。家具の配置変えたかったから」
「ふぅーん」

少し含みを残して言葉を返す。

「何よ。何か言いたそうな顔してるわね」
「まぁ、夜話そう。その時に質問する」

私は今いいたい気持ちを抑えて返した。

「?わかった。全ては夜にね」
「うん」



そう、全ては夜に。

果てしなく長い夜に。

女だけのナイショ話。



私たちだけのナイショ話を―――………





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