昨日のことなんて、殆ど覚えてない。
あまりにもあのことが頭の中で回っていたから。
幸いにも、今日はバイトを休みにしていた。
でも、何となく家にも帰りたくなくて電車に乗り込み、ぶらぶらし始める。
だが、あまり楽しくもなく、喫茶店で一人お茶を飲んでいた。
と、その時急にポケットの中に入れていたケータイのバイブレーションが体に響いた。
着信表示は……綾子からだった。
「あ、麻衣?今どこにいるの?」
綾子の突然の質問に辺りを見回した。
…全然見覚えがない。
「え?あ、今?ここ…どこだっけ?」
オトボケ口調で返す。
「はぁ?何よ、それ」
当然、綾子は呆れていた。
それは当たり前だ。
自分でも呆れてるんだから。
「あ、ちょっと待って。…あ、新宿の南口の方」
目印のデパートとかが見えた。
少し見覚えのある風景が映し出される。
「わかった。じゃあ、渋谷まで出てきてちょうだい」
「…?何で?」
…なんで渋谷? せっかく、休みだったのに…。
「いいから。それと、明日土曜だから学校ないわよね?」
軽く念を押すように尋ねる綾子。
いつもの私なら、ここで「何かあった?」と返すはずだった。
だが、今の私はそんな気力すらない。
「う、うん。」
「じゃあ、うちで泊まらない?真砂子も誘ってあるわ」
「え?ホント?行く行く!!じゃあ、渋谷のハチ公前で」
「じゃあ、後で」
そう言って、綾子からの電話が切れた。
久しぶりだった。
このところみんな忙しくて、ゆっくり会ってなかったのもあった。
素直に、「綾子と真砂子に会いたい」そう思っていた……。
誰かに、今の気持ちをしゃべりたかったのかもしれない。
そんなことを思うのは、後々の話だけど。 J
R渋谷駅、ハチ公前。 綾子を待つ。
十分くらいしたところで綾子が来た。
「ごめんねー。じゃあ、行こうか?」
「うん。あ、真砂子は?」
真砂子の姿がないことに気づいて尋ねた。
「仕事終わってから、まっすぐこっちに来るって」
「そっか。じゃあ、行こう」
そう促すと綾子と二人電車に乗って、綾子の家に向かった。
何ヶ月ぶりだろ?
暫く三人でお泊り会していない。
久々に夜中まで三人で話すのだろうか?
そう思うと楽しくて周りのことを気にせず「クスッ」と笑う。
そんな私を訝しげに綾子が見ていた。
「何?いきなり笑い出して」
「ううん。ひさしぶりだな〜と思って」
ふふっと笑いながら答えた。
「そうね。久しぶりよね。今日はじゃんじゃんしゃべりましょ」
「うん!料理も期待してます♪」
「任せなさい!とびきり美味しいビーフシチュー作るから」
自慢げに綾子は答える。
そう、綾子のビーフシチューは格別美味しい。
私も真砂子もお気に入りの一品だ。
「わーい♪」
しゃべっているうちに目的の駅へ着く。
ここからは歩きで十分。
うだうだしゃべりながら綾子の家目指して歩く。
ちょっと急な坂を登ったら、ワンルームマンションが見えた。
マンションのエントランスを抜け、エレベーターに乗り、綾子の部屋の階のボタンを押す。
どんどん上がっていくエレベーター。
目的の階に着くとすぐそこには綾子の部屋。 綾子が家の鍵を出し、扉を開ける。
「さ、どうぞ」
促されるまま家の中に入る。
「おじゃましまーす」
前に来た時よりも少し家具の配置が変わっていた。
………もしかして………
「…ね、綾子」
私は一点を見つめたまま尋ねた。
「ん?」
綾子はキッチンで飲み物の用意をしている。
「ぼーさん、この部屋来たの?」
頭に浮かんだ言葉を述べる。
「は?」
私の質問に驚いて、動かしてた手を止めた。
「来たんでしょ?」
確信していた。
女の勘だろうと自分で思う。
「何でそう思うわけ?」
「だって、家具の配置変わってるんだもん。しかも重い食器棚とか。男の人の力が必要でしょ?
綾子だったら、ぼーさん呼ぶだろうなって思って」
私の質問に納得した綾子はこう答えた。
「ええ、そうよ。家具の配置変えたかったから」
「ふぅーん」
少し含みを残して言葉を返す。
「何よ。何か言いたそうな顔してるわね」
「まぁ、夜話そう。その時に質問する」
私は今いいたい気持ちを抑えて返した。
「?わかった。全ては夜にね」
「うん」
そう、全ては夜に。
果てしなく長い夜に。
女だけのナイショ話。
私たちだけのナイショ話を―――………